【前編】20年以上使った冷温庫の割れた留め具を、3Dプリンターで作り直す
ものづくりの現場で「部品ひとつ壊れただけで、製品ごと使えなくなる」という場面は少なくありません。今回は、20年以上使われてきたポータブル冷温庫の割れた留め具を、3DCADと3Dプリンターで作り直す取り組みをご紹介します。前編では、破損状況の確認から設計、試作で見えた課題までをまとめました。
製作の背景
対象は、ツインバード製のポータブル冷温庫「SUPER DUO CARGO(OR-C662)」です。この冷温庫は譲り受けて使っているもので、製造から20年以上が経過していると思われます。
今年の夏、山へ持って行きいつも通り使っていたところ、蓋を固定する留め具が割れて分離してしまいました。新品で購入したものではなく、使用年数もかなり経っているため、メーカーから交換部品を取り寄せるのは現実的ではありません。本体はまだ問題なく使えることから、割れた部品をもとに3Dプリンターで作り直すことにしました。
破損箇所の状態

破損したのは、蓋を閉じた状態で固定する留め具部分です。実は割れる以前から、部品の曲がる部分に折れ筋が入っており、破損の兆候はありました。長年の使用で樹脂が劣化し、開け閉めのたびに同じ箇所へ力がかかり続けた結果、最終的に分離に至ったと考えられます。
さらに、ヒンジ部分はすでに割れた箇所に別のパーツが組み込まれている状態でした。元の形状がそのまま残っていない部分がある、というのが今回の難しいポイントです。
採寸と3Dモデリング

割れた純正部品をスケールで採寸し、3DCAD「Onshape」でモデルを作成しました。部品が2つに分離していることに加え、ヒンジ部分は元の形が残っていないため、採寸が難しい箇所もありました。そうした部分は、周囲の寸法や本体側の取り付け部から形状を推測しながらモデリングを進めています。
割れにくくするための設計の工夫

元の形をそのまま再現するだけでは、同じ箇所から再び割れてしまう可能性があります。そこで今回は、次の2点を設計に取り入れました。
1つ目は、角のR(丸み)を全体的に大きくしたことです。角が鋭いほど力が一点に集中して割れの起点になりやすいため、Rを大きくして応力を分散させています。
2つ目は、肉厚を増やせる箇所はすべて厚くしたことです。本体への取り付けに干渉しない範囲で肉を付け、部品全体の強度を底上げしています。
試作で見えた課題

最初の試作は、PLA樹脂で造形しました。ところが実際に本体へはめ込んでみると、ヒンジ部分が割れてしまいました。
原因は2つ考えられます。1つは材料の特性です。PLAは硬く粘りが少ないため、はめ込む際のわずかな変形に耐えられませんでした。もう1つは形状のずれです。割れた部品から採寸した寸法が、現物に合わせてみると若干異なっていました。
現在の取り組み
この結果を受けて、部品側だけでなく冷温庫本体の取り付け部を改めて採寸し、本体に合わせて3Dモデルを修正しています。材料は、PLAより粘り強く、はめ込み時にしなっても割れにくいPETG樹脂に変更して再製作する予定です。
ヒンジのように繰り返し力がかかる部分は、形状だけでなく材料選びも仕上がりを大きく左右します。完成品の取り付けと使用感は、後編でご紹介します。
部品ひとつでお困りではありませんか
杉浦製作所は、名古屋市港区で65年にわたり金属加工を続けてきた町工場です。これまでの「削る」加工に加え、3Dプリンターによる「積む」ものづくりにも取り組んでいます。
メーカーの部品が手に入らない、割れたプラスチック部品を作り直したい、ちょっとした治具やパーツが欲しい。そんなお困りごとがあれば、お気軽にご相談ください。
作業の様子はInstagramでも動画で公開しています。

